僕はただ静かにDQMSLをしたいだけなんだ。③

 


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暗闇が静かに語りかけて来る。

目覚めよ、

異形なる不死者を束ねる者よ、目覚めよ。

 

うぅ、誰だお前は。僕はただの人間だ。なんの変哲も無い、そこいらに居る健全なサラリーマンだ。これは何だ、夢なのか現実なのか分からない。ただただ暗闇の向こうから不気味な声が、僕の脳内に薄気味悪く語りかけて来る。目覚めよ、目覚めよ!

 

「うるせーーーッ!」

 

僕はその声を振り払うように飛び起きる。額は流れる嫌な汗にまみれ、心臓は煩くバクバクした音が止まらない。何なんだよ一体、異形なる不死者を束ねる者って。たかが夢を見ただけなのに、息をする事すら苦しい。いや、これは息じゃなくて胸が苦しいのか。肩を揺らし息を整えグイッと汗を手で拭った。

 

「大丈夫、マスター?」

 

ふと視線を移せば、心配そうにフワフワと揺れ顔を覗き込むゴーストがいる。僕は咄嗟にゴーストをぬいぐるみのようにギュッと抱きかかえ、重いため息を漏らした。

 

「変な夢見たんだよ、変な声が僕に目覚めろって。よく分からないんだけど、僕は目覚めたくない気持ちがひどく出てくるんだよ。」

 

「...」

 

ゴーストが下を向いて目を瞑る。そう言えばここどこだっけ。ああそうだ、旅を始めて暫く歩いてたら塔があったから最上階まで登ってはみたものの、塔の主のキラーパンサーとホイミスライムが僕のモンスター見て尻尾を巻いて逃げたんだ。その後あまりに最上階の見晴らしが良かったから、宿代わりに泊まってたんだった。

 

屋根はあるけど窓がない最上階。遥か遠くを見渡せば、砂漠のような砂地の中にゴツゴツとした高い岩山が見える、その奥までずっと遠く広がる世界。こんな景色は今まで見た事がない、風に乗って熱い砂の匂いがした。僕、ほんとに異世界に来てしまったんだ。しかし良いのだろうか、この世界を救ってくれとは言われたものの、エンカウントするモンスターは居ないし、ボスらしいモンスターは敵前逃亡するし、マジで珍しい土地をひたすら観光している感覚なんだけど。特に何もしないで、僕自身の経験値とかレベルって上がるのかな。このままだと強い敵に対面した時、僕ワンパンで死んじゃうんじゃないのかな。

 

怖い。めっちゃ怖い。

 

そんな事をぼんやり考えてると、ナイトウイプスが奥の部屋からひょっこり顔を向けた。

 

「マスター、そろそろ朝食にしませんか?」

 

朝からにしてはやたらと脂っこい良い香りがしてきた。おお。この塔は意外にも食料の蓄えが豊富だったらしく、肉や野菜を焼いたものを沢山がいこつが運んで来る。

 

「俺達は食べなくても平気だけど、マスターはしっかり喰わないと俺みたいになるぞ」

 

うう。僕はちゃんと食べてても、全く太れない体質なのに。でも骨格なら多分がいこつ並にあるはず。筋肉はほどほど、脂肪はゼロ。

 

「人が気にしてることを...」

 

「うはは、だったら沢山喰うことだな」

 

うへぇ。がいこつはハッキリと言ってくれるぜ。しかし目の前の肉は何の肉か分からないけど、焼き目が素晴らしく食欲をそそる。ごくりと喉が鳴った。思わず手を伸ばして恐る恐る一口食べると、見た目より随分柔らかい歯応えにくわえ、噛めば噛むほどジューシーな肉汁が後から口腔内に溢れてくる。調味料は勿論ないけど、脂の甘みと香ばしい香りでたまらなかった。

 

「うまっ!」

 

少し照れたような表情を見せるナイトウイプスが、今日はギラの調子が良く全然焦げなかったんですよと明るく笑ってた。僕は何となく何の肉か聞いてはならない様な気がして、ひたすら食べる事に専念をした。男は小さな事を気にしては生きてけない。ここで生きていく為には少しは男らしくしないと。ん、そうだ!

 

「がいこつ、食事が終わったら僕に剣の使い方を教えてくれないか、」

 

「は、マスターが剣術??」

 

「うん、何もしないでただ歩き続けるのはつまらないし、剣の先生がいるなら教えて貰おうって。ダメ?」

 

がいこつが承知したと頷いた後、苦笑した様子が見えた。変かな、そんなに変な事言ってないと思うけど。だってさ、この先どれだけ長い旅になるかも分からないのに、ただ3匹のモンスターに着いてくだけってつまらないし。何もしないで生きてくより、少しでも新しい事や変わった事してみるチャンスじゃないか。どうしてかな、前はこんな風に考えた事は無かったのに。

 

「じゃ、始めるか。ゾンビ剣術の基本形から、ナイトメアソード行くか」

 

「いきなりそこ!?」

 

見様見真似でがいこつと一緒に剣を振る。たった一日じゃナイトメアソードは使えないだろうけど、これから毎日やればいつか出来るようになるといいな。後、変な夢を見ないようにへとへとになるまで体動かしとこ。そうしよ。

 

「そういやさ、ゴーストは特技何使えんの?簡単な魔法とか僕出来ないかな」

 

「簡単なメラゾーマからやってみよ!」

 

「は、メラゾーマ?やっぱいいや、ナイトウイプスは僕が出来そうな特技を教えてくれない?」

 

「そうですねえ、さしずめ黒い霧を耳の後ろ辺りから出してみましょうか」

 
 
 
 

 

続く