僕はただ静かにDQMSLをしたいだけなんだ。⑥

 

 


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僕達は一晩かけて黒き呪いの泉までの道のりを地図で確認して、もしかしたら未知の敵と戦うかもと想定、作戦会議をした。眠気がピークの頃は空はまだ薄暗くて太陽が登りきる前、荷物をまとめてがいこつの親父さんにそっと挨拶をして足早に村を出たのだった。

 

黒き呪いの泉までの道程、時々出会うモンスターはやはりアンデッド系の野良モンスターばかりだった。野良モンスターは野良らしく、敵意全開に僕達の前に立ちはだかる。

 

しかし、僕のお供達のチート過ぎる力のお陰か、エンカウントするモンスター達はビクつき、怯え、泣き出して脱兎のごとく逃げてしまう。僕はむしろ戦意など微塵もなくて、泉までの道順が合ってるのかとか、病を治す花は本当に咲いているのか聞きたかったのに。強すぎる仲間を持って幸か不幸か分からないなと皮肉さに、口元がついつい緩む。

 

村を出てから数時間が経過した。ずっと一本道で来た僕達は緑というよりも黒みががった不気味な森へと侵入する。心做しか空気が澱んできた。なんか変な香りがする。や、めっちゃ臭いし。ただその雰囲気に反して僕は眠気やら疲労やらがどんどんと無くなり、身体の奥底から力が漲るような、とても変な感覚に陥っていた。

 

「なあなあ。僕さ、正直言ってこの不気味な森の空気が肌に合うって言うか、元気になってきたと言うか...、変かな?」

 

「あ?マスター何言っているんだ?」

 

「この森は禍々しい瘴気に満ち溢れていますよ?」

 

「フツーの人間だったら森に入った途端に死ん「こら!ゴースト、余計なことを言うものでないですよ」

 

「?」

 

何かを言いかけたゴーストの口をナイトウイプスが塞いで、そのまま2人は上に浮いてってしまう。最後の方の言葉がよく聴こえなかったけど、きっとコイツらがいるお陰で守られているんだろう、僕は勝手に自己解決をして3匹よりも先へと進んだ。

 

(今マスターがフツーの人間じゃないと分かったら混乱してしまうでしょう!)

(ごめんっごめんてー!)

(しかし酷い瘴気だな。並の人間なら即死レベルだぜ。なのに、)

 

ヒソヒソと話す3匹の目の前をルンルンと軽やかに歩き続ける1人の人間。やはり彼は人間ではなく、別の何かには違いない。だけど、その現実を今知らせる必要も無い。彼が不死者を束ねる者と自覚してしまったその時、何かとてつもない出来事が起こる。想像をしてしまった3匹は背筋を震わせ、口を噤んでしまう。

 

「お!もしかしてあれが黒き呪いの泉か?」

 

3匹の気も知らず、僕は目の前に見えた泉に向かって走り出した。タタタタタ、着いた先には泉と言うよりも毒の沼地に近い黒と紫と緑の混じったドロンドロンの液体が多い尽くしている。そのドロンドロンの液体は時々ふしゅーっと変なガスを吐き、まるで泉が呼吸をしているようだった。

 

「これが黒き呪いの泉???」

 

「一応は、泉っぽい形はしてますよね」

 

「なんかこう、全然想像と違う...」

 

こんな汚ったない泉の側に、奇跡に近い花が咲いているとは到底思えない。だけれども、花を見つけてやらないと、がいこつの親父さんの命も危ない。僕達はとりあえず泉の周囲を探索し始めようと思った時。

 

「あらん、ここに人間が来るなんて、初めてじゃない?」

 

薄暗い森、変な色の沼地には似つかわしくない、それはとてもセクシーな女性の声。透き通った鈴の音の様に響き渡る。

 

「もしかして、あなた達は私をお探し?」

 

周囲を見渡しても、その悩ましくもセクシーな美声の主は見当たらない。僕がキョロキョロしていると、目の前に赤黒い大きなワカメの塊がヌッ!と現れたのだった。

 

「ヒッ!」

 

「ウフフ。可愛い子ね。私に何か用?」

 

「んんん?フラワーゾンビ?」

 

ワカメの塊の隙間から、まつ毛の長い瞳、赤い唇がちらりと見えた。まさか。まさかとは思うが、黒き呪いの泉の花って、このフラワーゾンビ???僕は驚きすぎて腰を抜かしていたが、目の前のモンスターに問う。

 

「あのー、つかぬ事を伺いますが、ここは黒き呪いの泉です?」

 

「ええそうよ」

 

「どんな病を治す花ってどこにありますか?」

 

「フフ、その花はね、」

 

「?」

 

「私自身なのよ、ボウヤ」

 

 

 

 

 

死者の渓谷の村 後編
 

 

続く