僕はただ静かにDQMSLをしたいだけなんだ。⑦

 

 


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(扉絵、ストモン様より)

 

 

 

目の前に現れたフラワーゾンビ。見た目はもっさもさのワカメの塊だが、彼女から発せられる声は小鳥の囀り、それはそれは透き通るようなこの世のものと思えない美しい声であった。

 

「あ、貴女が伝説の花...?」

 

「うふ、そうは見えないわよね。でも、これならどうかしら♪*゚」

 

 

♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜

 

 

彼女は聞いた事のない言葉で軽やかに歌う。するとどうだろう、身体の芯から力が漲りはじめ、僕達の疲労がみるみるうちに回復していく。

 

「俺の慢性的な腰痛が治った」

 

がいこつは腰痛もちだった!全快した!

 

「ぼくの胃の痛みが無くなった」

 

ゴーストはストレス性の胃炎だった!全快した!

 

「私の心が平静を取り戻してます」

 

ナイトウイプスは自律神経が乱れがちだった!全快した!

 

「歯の裏の口内炎が...」

 

チョコラBBでも治らない主人公の口内炎が全快した!

 

「すげえ...」

 

「うふふっ、これで私の歌声が証明できたかしら♪*゚」

 

フラワーゾンビが悪戯っぽくウインクを魅せる。がいこつはフラワーゾンビに近寄り、手をギュッと握りしめた。

 

「いきなりこんな願い事で不躾だが、俺の親父が不死の病に冒されてる。貴女様さえ良ければ、俺の親父にその奇跡の歌声を聴かせて頂けないだろうか...」

 

フラワーゾンビの手を強く握りしめるがいこつの肩が小刻みに震えてる。フラワーゾンビはがいこつの手を握り返し口を開いた。

 

「お易い御用よ、私で良ければ貴方のお父様の元に連れて行って頂戴♪*゚」

 

「...っ、恩に着る!」

 

快諾してくれたフラワーゾンビの手を引き、僕達はがいこつのお父さんがいる村へと足早に戻ったのだった。

 

 

 

 

「親父!今戻ったぜ!」

 

がいこつが父親の元へ戻ると、半分崩れ掛けたヴァルハラーがヨタヨタと起き上がる。ボロボロと骨の欠片が脆くも崩壊しつつあったのだ。

 

「お、おお、早かったな...」

 

「お、親父、なんて姿に!」

 

「これは行けませんわ、早急にしないと♪*゚」

 

フラワーゾンビが僕らを押しのけて深呼吸をした。

 

 

 

♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜

♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜

♪。.:*・゜♪。.:*・゜♪。.:*・゜

 

 

 

紹介よりも早く、フラワーゾンビはヴァルハラーの崩れ掛けた手を握りしめ、彼に歌声を降り注いだ。その美しい歌声は狭い部屋に響き渡る。力強く、時には暖かく、声色はゆっくりと変化した。例えようの無い感動に、聞いている者たちは皆自然に涙を溢れ返す。胸が締め付けられ、切なく苦しい。

 

薄暗い小さな寝室が目の錯覚か七色に彩られる。キラキラとヴァルハラーの身体が光始めたと同時に、崩れ掛けていた身体が修復されていく。

 

「お、おおっ、親父の身体が...!」

 

暖かい光が徐々に消えていき、完全に光が無くなった時にはヴァルハラーの身体は元に戻っていた。

 

「フー、成功成功♪*゚」

「親父!」

 

「なんて奇跡だ、崩れ掛けた身体が元に戻るなんて...!」

 

「お力になれて良かったわ♪*゚」

 

絶えず微笑みを漏らすフラワーゾンビの手をヴァルハラーは固く握りしめ引き寄せる。

 

「ん、こちらの美しい女性はどなたかな?私の病を治して頂き、感謝の言葉が見つからない」

 

熱っぽい眼差しを向けるヴァルハラー。

 

「あら、美しい女性だなんて。私そんなの言われた事無いわ♪*゚」

 

頬のワカメを赤らめて顔を逸らすフラワーゾンビ。もう2人の世界に入ってしまった。2人を見守る主人公とお供の3人は完全に蚊帳の外であったのだ。むしろ空気より存在が薄くなったのだった。

 

「なにはともあれ、親父さんの身体が治って良かったな、がいこつ!」

 

「全く俺らなんて眼中に無いとこがアレだけど、心からこの村に帰って来れて良かったと思うよ。ありがとうマスター」

 

「親父さんの全快を祝して今夜は飲もうぜ!」

 

村中の皆が頭領ヴァルハラーの全快に驚き、フラワーゾンビの奇跡に歓喜の声をあげた。奇跡の花がフラワーゾンビであっさりと解決できた件は喜ばしい事だが、がいこつは1人パニッシュメントの使い手に眉を顰める。

 

一体誰がこの村を襲ったのか。この先旅を続けるに当たって、そいつと対峙するのは必至だろうな。それまで俺らのマスターをもっともっと鍛え上げておかねば。

 

「どうした、がいこつ?」

 

「どうしたもんかな、この先」

 

「もうこれからの事考えてんの?」

 

「なあマスター、明日からの修行は今までの倍頑張るぞ」

 

「は?何でそうなるの?」

 

 

 

 

死者の渓谷の村 完結
 

 

 

続く