僕はただ静かにDQMSLをしたいだけなんだ。④

 

 


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ゲームのモンスターズと言えば、育成したモンスターに命令して敵モンスターを倒して仲間にするんだけど、僕の場合はチートな能力を持つモンスター達に毎日特訓を受けている。何の特訓かと言われても、いつどこで役に立つかは今は分からない。だけれど、ただひたすら後を着いていくだけの旅は、何となく嫌だ。その気持ちだけ。

 

朝はがいこつから剣を借り素振りを始め、昼間は空いた時間にゴーストから魔法の基礎を学び、夜は寝る前にナイトウイプスからあらゆるモンスターについての知識を聴く。子供の頃からモンスターズをやっていた僕は、ちっとも苦ではなかった。むしろ普通の生活を送っていた時よりも、充実している。かもしれない。

 

「そろそろアソコに着くな」

 

旅を続けて数日。深く寒々しい岩山の谷に差し掛かった頃、がいこつがポツリと呟いた。

 

「アソコってどこだよ?」

 

先頭を黙々と歩いているがいこつの顔をひょいと覗き込むと、心做しか顔色が良くない気がした。

 

「ぷ!がいこつさ、まだ仲直りしてないの?」

「いい大人が喧嘩したままなんて、呆れたものですね」

「...、喧しいぞお前ら」

 

がいこつの口数は少なくても、静かに怒っているのは分かる。僕が3人の会話に着いていけず、頭の上に?マークを沢山浮かべていると、ゴーストとナイトウイプスが僕の耳元でヒソヒソ話をしてきた。

 

「この先にね、死者の渓谷と呼ばれる所を抜けて奥まで進むと、がいこつのお父さんが頭領やっている村があるんだよ!」

 

「がいこつは確か100年前にその村の頭領を継ぐ継がないで、お父さんと喧嘩をして村を飛び出した経緯がありまして」

 

「旅をするのに、どうしても死者の渓谷を通らなきゃならないから、僕達でがいこつ説得したんだよ。村に立ち寄ろうってさ!」

 

「がいこつはあからさまに嫌な顔はしましたが、マスターをゆっくり休ませる為だと言いましたら、渋々納得はされましたが」

 

ゴーストはワクワクした表情を、ナイトウイプスはヤレヤレと言った表情を浮かべている。死者の渓谷にあるがいこつのお父さんの村。どうしよ。死者のっつってる位だから、ゾンビのモンスターしかいないのかな。村にもお父さんにも興味津々。がいこつには悪いけどさ。

 

「はあ。村に着くぞ。」

 

浮かない表情のがいこつが指を示したその先には、僕の想像とは違った一見のどかな雰囲気の村がそこにはあった。誰にも言われなきゃ人間が住んでそうな家が立ち並び、お店や畑とかもある。花の良い香りがした。

 

僕達が村の入口にたどり着くとワンワン!と嬉しそうに犬ががいこつに駆け寄って飛びついてきた。うーん。あれはもしかしてアニマルゾンビかな、半分ドロっと溶けて崩れているし。

 

「くぅーん、くぅーん、」

 

「ははは、ポチ元気だったか、100年ぶりだな!」

 

がいこつが抱き抱えるポチは尻尾振りすぎると肉片が落ちてしまうんじゃないかと、僕はハラハラと見守る。ポチの嬉しそうな鳴き声を聞いてか家々のドアが開き、村の住民達ががいこつに駆け寄って来た。

 

「おお、お坊ちゃん、お元気でしたか!」

 

多分昔は割腹が良さそうであろうと思われる、くさった死体のおじさん。

 

「まあまあ、ご立派になられて!ばあやはお坊ちゃんの姿が見られてこんな喜ばしい事がありましょうか...」

 

がいこつの傍でさめざめ泣いている乳母であった方であろうか、ピンク色のおばちゃんマミーがいた。

 

面白い。想像通り、周りはゾンビ系のモンスターしかいない事が、僕の好奇心を掻き立てていた。後で話しかけてみよ。

 

「あー、その、親父はどこにいる?」

 

照れくさそうに頬を掻くがいこつが周りに集まっているゾンビ達に聞くと、皆一斉に浮かないような、悲しそうな表情になった。ゾンビ達は重く、ゆっくりと口々を開いた。

 

「坊ちゃんがいなくなってから暫くしてこの世界が変化したのはご存知でしょう」

 

「突然にこの村に得体のしれない者達が襲撃に来てしまい」

 

「頭領は村の者達を守るために全力で闘ってくれました。ですが」

 

「得体のしれない者達の中にデインを得意とする者がおりまして、奴らを退けられたものの頭領は身体を壊して今や病床に伏せっております」

 

「...、なんだと!?親父!!!」

 

見る見るうちにがいこつの表情が変化する。ハッと顔を上げたがいこつは、遠くの丘の家に向かって走り出した。僕達も顔を見合わせて、がいこつの後に続いて走り出す。間もなく家に着くと、呼び鈴を鳴らさずに扉を勢いよく開け寝室に向かう。暗く空気の悪い部屋には、痩せ細った骨のヴァルハラーが咳き込みながらベッドに横たわっていた。

 

「お、親父!!!」

 

「う...、その声は我が息子...」

 

振り絞る声のヴァルハラーお父さんがフラフラと起き上がる。痩せ細った骨とか、どこから咳き込んでいるのかとか、がいこつのお父さんがヴァルハラーとか色々聞きたい事は山ほどあったけど、久しぶりの親子の対面に、一先ず僕達は暖かい気持ちで後ろから親子が抱き合う姿を見守っていた。

 

 

 

死者の渓谷の村 前編
 

 

 

続く